曼珠沙華の戀
あな、貴方を殺さばや
花踏みしだく月喰ひの
蠢く蟲の罪をや教えむ
ありつる穢らひ吾が身を焼かふ
忌まわしき檻の中
口鬱しやせむ
飼はるる身の心を
鏡見する夜の眸が
笑みたるぞ悍ましき
澱みつる徒花の
生めかしきが今宵
白濁なる闇の内にて
赦し乞ひ啼き哭す
声ぞ、嗄れ涸れて
遅咲きの花の咲くごとく
貴方をやは殺すまじき
声ぞ、止め処なき
紅き刃の煌めきに
朧なる影を見ぬ
落ち流れぬるは原色の
椿の首に似たりけむ
あな、貴方を殺さばや
ありし絆を解き放たむ
さ手に残りたる
悪しき咎人が末裔かし
花の霞が最中
消えて往にたる彼に
伸びる腕
冷たさの果ての肌を
掻き抱く
あな、貴方を殺さばや
吾のみのになむすべき
さ手に残りたる
恋しき罪人が俤かし
貴方を殺さばや
眼球が視姦の罪だに
貴方を殺さばや
盲目が愛の畸形にや
憎き厭わしき貴方が唇に口づけを
穢ら(けがら)
吾(あ)
口鬱し(くちうつし)
鏡(きょう)
夜(よ)
悍まし(おぞまし)
澱み(よどみ)
徒花(あだばな)
生めかし(なまめかし)
内(うち)
哭す(こくす)
刃(は)
絆(ほだし)
咎人(とがびと)
最中(さなか)
罪人(つみびと)
俤(おもかげ)
眼球(まなこ)
盲目(めしい)
畸形(かたち)